2012年 01月 31日
こないだ老饕擡へ行ったら、森田さんが、 「懐かしいかと思うんですが、酔っぱらい海老、やりましょう」 と言って、焜炉と鍋を出してきた。 いやあ久しぶり、、、を越えて、当家、何時以来なのか考えてもわからない。 この料理、醉翁生中蝦は1980年代香港を席捲したヒット作で、80~90年代にはずいぶんと食べたものだ。 概ね、「海老の紹興酒漬」+「白灼蝦」+「ゲリドンサービス」…という構造で成立している。 Unicorn のレシピ本で見てみると、 ********* 生蝦放入玻璃窩内、加入紹酒、加上蓋、稍等10分鐘或至蝦停止跳動。 銅窩放汽油爐面、加入上湯、薑及葱、猛火煲滾後、即放入巳停止跳動的醉生蝦、約3至4分鐘便可撈起;上湯亦可作餐湯飲。 ********* と、難しいものではないが、活海老や紹興酒・上湯の質は問う。 なお、Unicornでは、「用具:日本式座枱汽油爐一個」という指定が付く。香港料理が日本に頼るものは、鮑や魚翅ばかりではない(笑)。 ガラスの器に海老を入れて紹興酒を注ぐと、しばらく海老は激しく踊るが、踊り疲れるのかやがてグッタリと静まる。しかし、待つこと数分、何故かまた一斉に激しく身を捩り跳ね上がり踊る。これを繰り返す。 「三度踊る」…と言う口上は何回か聞いたなあ。まあ三回踊らないものは、鮮度か酒に問題があるかも(笑)。この日は元気がいいのか、五回くらい踊っていた。 この海老を、葱・生姜入りの上湯で湯引くのだが、天っ辺に海老の彫り物のついた専用鍋に海老一匹がやっと入る穴と小蓋があり、小蓋を開けてその穴から海老を投入していく。 超ひさしぶりの酔っ払い海老は、紹興酒の回った頭の味噌といい、ほんのり香りがついた身といい、“いやいやどうして、これは立派な料理じゃわい”と思い出させる美味でありました。 *** さて、この料理、80年代後半には香港中で食わされたので、当初すぐは古典的なモノかと思っていたのだが、後に“新派”の80's菜だ…と聞く。そして、確か、Unicorn 麒麟閣グループがオリジナルだ…と聞いた…ような気もする。 最近は、「ちょっと気になること」は何でも目の前のハコに尋ねればいい…ことになっているので、酔っぱらい海老の歴史についても見てみようと思った。まぁwikiにでも載ってんじゃね?…と。 で、「酔翁生中蝦」でググってみると…当たらん(^^;)。 ってゆーか、自分のサイトだけじゃん(^^;)。 んなことをツィートしてたら、知人に見咎められた。「何しとんの?」と。 ちょうどたまたま、オールド香港に明るい数人のいる宴会があったので聞いてみた。大方の意見は、 ●一般に、中国の事象において、「本当の起源」を知るのはたいへんに難しい(笑) ●この骨子の料理が1980年代まで無かったとは、到底思えないし、それ以前に食べていると思う ●ただ「この“例の”アレ」(日式コンロに覗き穴鍋にゲリドン)を始めたのが80年代麒麟閣集団…というのはあってもおかしくない感じ とのこと。私も大筋、そう思う。 「酔翁生蝦」だともう少しヒットする…とZ氏が言うのでみると確かに。ただし「"酔翁生蝦"」だと1件のみ、しかもそれは「老饕擡」の話(笑)。 「酔翁活中蝦」…という表現もあった。これが「横浜中華街聘珍楼」。ほぉ。 「酔翁生猛蝦」…勇ましいな。これは「火龍園」。 なるほど。 ところで、上の醉翁生中蝦のレシピはかなりオーソドックスなものと思うが、以後、これのバリエーションは多々現れた。 とくに多かったのは、漬ける酒を紹興酒に限らず各種白酒などに広げたもの、と、湯引く前にそれに火をつけて炎上させる(笑)もの、である。アルコール度数が高いと、より燃えやすいのね。 これは、「火焔酔翁蝦」なんで名前になることが多い。個人的には80年代に「唐閣」でいただいたのが最初だったかな。 この名前の検索には、「鴻星海鮮酒家」や「赤坂璃宮銀座」など引っ掛る。 “火焔”版を検索してて面白かったのは、大概の場合、炎を上げさせた後(軽く焦げ目がついたりする)湯引きするのだが、ガンガン燃やして「焼いて出来上がり」というバージョンもあるらしいこと。これは出合ってないわぁ。 しかしまあ、この“活海老の瞬間紹興酒漬の湯引き”の料理名だが、要するにいちばん一般に使われているのは単純に、 「酔蝦」 のようであった(^^;)。まあ「酔蝦」だと意味は広くなっちゃって、違う料理を指す場合も出ちゃうけどね。 さて、ここまで読んでいただいた付き合いのいいオヒマな善人の方はさすがにイライラしてらっしゃるでしょうが(^^;)、私も、バアーっ…とこの辺まで検索してみて気付いた。 google先生は、「酔」と「醉」に関しては、親切心を出してくれてないんですね(^^;)。 「酔」を「醉」に変え、「"醉翁生中蝦"」で仕切り直し。おお、さすがは神戸の「老香港酒家」はこっちの字だ。「怡東軒」が「センス」でフェアした時にも出ている。 あとは中国語サイトか、200件ほど。 「"醉翁生蝦"」が40件、その中で「るるぶ.com」に 「ゴールデンユニコーン:~創作料理にも積極的で、老酒で酔わせたエビを生きたまま茹でる「醉翁生蝦」の元祖としても有名」 と書かれている。やはり麒麟起源説(笑)はある程度広まっているのだな。 ところで、“それにしても麒麟金閣は21世紀初頭に閉店したのになあ”…と思ってみていると、気になることが。 住所が、「リー・シアター・プラザ」となっているのだ。 調べると、ゴールデンユニコーンは存在しないようだが、「ユニコーン麒麟閣酒家」というのがLee Theatre Plazaに出来ている。サイトもあって、ユニコーングループの後継のように書いてある。ホントなのかにー? *** “唯霊なんか詳しいんだろうなあ”と思ってフト、「香港の食いしん坊:飛山百合子」(白水社)をペラペラっとやったら、「醉翁生蝦の先駆けと」なった料理として、1972年に開店した銅鑼湾「慶金閣」の「堂灼基圍蝦」という料理が紹介されていた。白灼蝦を「堂灼すなわち活きたエビを客の面前でボイルして、活きがよいことを強調した料理」だそう。 *** …なんてとこです。…を、忘れてしまうのも癪なので此処に覚え書き(^^;)。 文献などあたって行くともっと出てくるだろうけど、もうオナカ一杯(^^;)。 私は、世間の、その時々にたゆたうホワホワした空気には大いに関心のある者だが、「料理史研究」まで逝っちゃうと些か趣味の範囲外なので…(^^;)。 -------------------------------------------------------------------------------- AQ! Ishii web site 「楽しいレストラン」 美味しいCDもあります
by aqishii
| 2012-01-31 21:16
| 年代記(総合)
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